Work and Photo by Senri
こんにちは。ミロの羅針盤館長のSenriです。
今日は彫刻制作40年の私が、「抽象彫刻のアイデアの出し方」について、歴史上の巨匠の例を用いて初心者の方にも分かりやすく解説します。
この記事を読むと、
抽象彫刻とは何か
形を導き出すための具体的な考え方6選
巨匠たちが何を「羅針盤」にしてきたのか
を詳しく知ることができます。ぜひ最後までお付き合いください。
抽象彫刻の魅力 古くからある現代的表現
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私が抽象彫刻という世界に足を踏み入れたのは、美大を卒業して彫刻家の堀内健二先生のアトリエに弟子入りした時でした。
大学で人体彫刻(具象)を学んでいた私にとって、先生が手がけるブロンズ、石、鉄の抽象作品は、とても新鮮で衝撃的でした。
先生の傍らで仕事をするうちに、私はその奥深さにどんどん引き込まれていきました。
抽象彫刻は、現代的でありながら、実は先史時代から存在する根源的な表現形式です。
以来、私の制作の中心は抽象表現にあります。
抽象彫刻のアイデアを生む「6つの視点」

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さて、この章では、まずは「抽象彫刻がどのように生まれ、何を表現しようとしているのか」を、巨匠たちの足跡を辿りながら紐解いてみましょう。
巨匠たちの創造の視点をたどることによって、あなたの中の奥深いところでヒントが生まれ「何かを作ってみたい」という欲求が自然と湧き上がってくるはずです。
抽象彫刻のアイデアの出し方① 自然界の要素を「抽出」する
自然の中には、完成されたデザインが溢れています。
風景、葉っぱの葉脈、貝殻の螺旋、雲の形、骨の形……。
彼らは徹底的に自然を観察しましたが、写実的な要素を積み上げていくプロセスは取らず、むしろそのエッセンスを単純に表そうとしました。
抽象彫刻を作るうえでは時に写実主義的な観察よりもさらに綿密な観察を必要とします。
それはある意味、写実を成立させる目の錯覚を誘う技巧を用いないという側面があるからです。
巨匠の視点: バーバラ・ヘップワースやヘンリー・ムーアは、石や木の中に「風景」を見出し、自然界の有機的なフォルムを彫刻に昇華させました。


抽象彫刻の実践1. 自然界をくまなく観察しそれを形にしよう
自然界にあるものを観察して何度もスケッチしてみましょう。
それを基に粘土で形を作ってみよう。
アドバイス:
木の枝や骨など、有機的な形をしたものはどこを観察しても生命感があふれるフォルムに満ちています。たとえ自然物の部分を切り取ったとしてもそこに秩序が見つかるときもあります。
彫刻表現は内側から盛り上がってくる形の充実をとらえることが大切です。
ヘンリー・ムーアのように交差する線も使って、何度も形を確認しながらスケッチしてみてください。
形の奥にある「力」を想像してみてください。
自然界の「リズム」を自分の呼吸に乗せて自由に線を引いてみてください。
それを基に、まずは粘土で小さな模型を作ってみましょう。
ヒント:
彫刻のフォルムはできるだけ内側から張り出してくるような形を意識します。
抽象彫刻のアイデアの出し方② 形を極限まで「単純化」していく
人体や動物、魚、鳥など、見慣れた形から余計な細部を削ぎ落とし、最後に残る「本質的なライン」「命」「魂」を追い求めるアプローチです。
モノの「性格」を明らかにしていく方向性ともいえるでしょう。
一つの例えとして、川の上流にある石はまだゴツゴツしていますが、時間をかけて下流のほうに流れ着いた時には角が取れて丸くなっています。
しかし上流にあったときの「元の性格」は変わっていません。
曲がった石は曲がったまま、平べったい石は平べったいままです。
むしろ川の流れの中で磨かれた後では、「元の性格」が明らかになっています。
最終的にそのアプローチはフォルムと素材が一体化したような印象を与えます。
巨匠の視点: コンスタンチン・ブランクーシや、動物彫刻のフランソワ・ポンポン。
彼らの作品は、究極までシンプルだからこそ、対象物の「魂」が剥き出しになっています。


抽象彫刻の実践2. 「単純化」への挑戦
目の前にある対象(犬だったらそれらを特徴づけているライン、シルエットを意識してスケッチしてみましょう。
自分が納得するまで何度も線を引いてみましょう。
線を引く中で立体的なイメージを想像してみましょう。
そのスケッチを参考にしながら粘土で犬を作ってみましょう。
アドバイス
スケッチを粘土で立体にするとき、大きな塊の組み合わせ(元の性格)によって全体が出来上がっていることを意識しましょう。
そうすることで生命感のある張りのある形を作ることが出来ます。
ヒント
細部を「どこまで削れるか」という引き算のゲームを楽しんでください。
抽象彫刻のアイデアの出し方③ 素材の「声」を聴く
石材、木材、ブロンズ、粘土 鉄……。
素材が持つ質感、重さ、感情に意識を向けていきます。
素材の特徴に合わせて、様々な方法でそれらを最大に引き出すことで、素材が持つ言葉を際立たせます。
素材感を際立たせる方法はたくさんあります。
石 : 磨く 叩く 割る
木 : ノミ痕 削る チェンソー 磨く
鉄 : 細長い形 曲げる 叩く 錆びさせる
ブロンズ : 腐食 磨く 鋳造
粘土 : 手びねり 押しつけ 焼成 かたどり
ミクストメデイア : アッサンブラージュ
巨匠の視点
イサム・ノグチは石の肌やノミ痕にこだわりました。それらと磨きを組み合わせ、石の魅力を最大に引き出しました。

デイビッド・スミスは鉄を使ってたくさんの作品を作りました。表面を引っかいたり、塗装をしたりしましたが、この作品は錆びに塗膜の役割をさせています。鉄は人間の血液の中にある鉄分と呼応するのか、特別な感情を呼び起こします。

イサムノグチの師であるコンスタンチン・ブランクーシはシンプルな形を極限まで磨くことで石やブロンズの中に「太陽の輝き」を発見した彫刻家でした。

抽象彫刻の実践3. 「素材」と対話する
アドバイス:
最初はうまくいかないかもしれないですが、自分のアイデアを素材に押し付けないようにして、素材に「どうなりたい?」と聞いてみてください。
素材を見つめ耳を澄ますとき、何かが見えてきます。それはとても微妙なものだったりします。
石のざらつき、木の温もりをじっくり観察します。
素材が持つ「美しさ」をを引き出すことを意識しながら、割ったり、ノミで叩いたり、磨いたりします。
やりすぎた!と思うこともよくあります。
大事なことはそれをつづけるうちにもっとよく見え、良く聞こえるようになってくるということです。
ヒント:
その瞬間を見逃さないように。
時には自分の決断を潔く実行します。
自分の決断はいつも間違うという謙虚な気持ちが大事。
抽象彫刻のアイデアの出し方④ 構造的な「対比(コントラスト)」を作る
曲面と直線、実体と空洞(ネガティブスペース)、荒い面と滑らかな面。相反する要素をぶつけることで、視覚的なエネルギーを生み出します。
巨匠の視点: デイビッド・スミスやアンソニー・カロは、鉄などの素材を使い、空間を切り裂くような力強い構造美を作り上げました。


また、アレクサンダー・カルダーや新宮晋のように、「動き(キネティック)」を取り入れて風や水と対話する表現もあります。
4「対比」でエネルギーを生む
アドバイス
例えば石に小さな「穴」を開けるだけで、その石はふわりと浮かび上がるような軽やかさを持ち始めます。
粗い削り跡と、鏡のように磨いた面を隣り合わせにすることで、彫刻の中にドラマが生まれます。
鉄であれば、丸いラインと真っ直ぐなラインを組み合わせてみましょう。
画用紙をいろいろな形に切り抜いて、立体的に組み合わせる作業は面白いですよ。
後で鉄やアルミで大きな作品を作るときの模型にもなります。
ヒント
「静」の中に「動」を、あるいは「重さ」の中に「軽さ」を作ってみましょう。
「大きいもの」と「小さいもの」を組み合わせてみましょう。
「硬いもの」と「柔らかなもの」を組み合わせてみましょう。
あらゆる「反対のもの」を組み合わせてみましょう。
抽象彫刻のアイデアの出し方⑤ 「目に見えないもの」を視覚化する
「喜び」「風」「音」「静寂」「もやもや」……。私たちの内側にある感情や、目に見えない感覚を、立体的な線や面で表現します。
巨匠の視点: ルイーズ・ブルジョワの心理的な深淵や、イサム・ノグチの静謐な空間。
彼らは、素材と形を通して私たちの心そのものを彫り出そうとしました。
実践5「目に見えないもの」を形にする
アドバイス:
「目に見えないもの」を目に見える形にするためには、何らかの素材が必要ということです。
石や、気や、鉄、ガラスなどの物質の力を借りて初めて目に見えないものが表現されます。
逆に言うと、これらの物質を通して見えないものの存在を感じることが出来るということです。
言葉にできないモヤモヤした感情があり、それを何とか形にしようとするとき、それは素材とその形に即してその「感じ」を表していくのが制作です。
目に見えないものを表現しようという時、それはほとんどの場合、これを表現してみたい、という衝動に突き動かされる場合が多いのではないでしょうか。
それは逆説的ですが、そのようなものを表現している優れた作品を見たときなどに、インスピレーションとしてやってくることがあります。
自分の中にもこんな感じがある。
私もこんな風に表現してみたい!
そういうことはないでしょうか?
そんな時も何をしたらいいかわからない場合もあります。
それでもそういう時は、自分の中でカタチになりたがっているものは確実にあるのです。
そんな時は気になることをやってみましょう。
いろいろ粘土で手遊びをしたり、落書きをするのもいいでしょう。
気になる材料を触ってみるのもいいですね。
ヒント
目に見えないものは、しばしばインスピレーションの形をとってやってきます。
「何か」ワクワクするものがそこまで来ているという感じです。
それは新しい出会いや刺激、美しいものを見たとき、あるいはそのしばらく後などにやってきたりします。
抽象彫刻のアイデアの出し方⑥ すでにあるものを再構築する(アッサンブラージュ)
ゼロから作るのではなく、既存の物(レディメイド)を組み合わせたり、張り合わせたりすることで新しい意味を生み出す方法です。
巨匠の視点: パブロ・ピカソの自転車のサドルを使った作品にみられるような日用品やスクラップを組み合わせる方法、フランク・ステラの絵画と彫刻の境界を越えるようなダイナミックな構成が、この分野に新たな光を当てました。


実践6. 「組み立てる(アッサンブラージュ)」の楽しみ
アドバイス:
私もアメリカ時代、高速道路の工事現場で拾った木材などから作品を作っていました。
海洋ゴミを使って作品を作ったこともあります。
本来の役割を終えたものたちが、新しく組み合わさることで「全く別の命」を宿す瞬間があります。
それは自分の中の美意識がそれらのオブジェの言葉を通して発現される瞬間です。
自由な発想で並べてみましょう。
ヒント:
身近にある「ゴミ」や「廃材」は、宝の山です。
おわりに:あなたの「羅針盤」を信じて

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抽象彫刻は、より本質的でより自由な探求を可能にする彫刻表現と言うことが出来ます。
抽象彫刻の父と言われたコンスタンチン・ブランクーシが抽象作品を制作し始めてから1世紀の間に、彫刻表現は本当に多様な表現形態の発展を遂げてきました。
そこにはもはや「正しい・間違い」はありません。
今回ご紹介した巨匠たちの技法も、一人の人間が、自分と素材との対話の中で見つけ出してきたものです。
私たちは彼らの残した遺産に触れながらも私たちの体験と発想を付け加えていくことが出来ます。
それはすでに「オリジナル」と言っていいものなのです。
このブログが、あなたが自分だけの「形」という宇宙へ漕ぎ出すための、小さな羅針盤となれば幸いです。
近年、中学校の美術の授業でも「抽象彫刻」が注目されています。
「どう作ればいいか分からない」と悩む中学生や先生方のために、より具体的な「授業でのアプローチ方法」をまとめた記事を用意しましたので、以下のリンクからぜひご覧ください。
https://www.milocompass.com/jrhigh-abstract-sculpture





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