キャプション: 雲仙岳災害記念碑 Senri 作 大自然の光の下に引き出された、石が持つ物語
こんにちは。
ミロの羅針盤館長のSenriです。
今日は40年の彫刻の制作経験を持つ私が、大理石の彫刻の彫り方の種類について詳しく解説していきます。
これらの技法について、私の体験のエピソードも交えわかりやすくお話していきます。
この記事を読めば、石の彫刻の技法について、
また彫刻がどのように出来上がっていくのか、
あの名作はどのようにして出来上がってきたのか、
についてもよくわかりますので、どうぞ最後までお付き合いください。
はじめに:彫刻的な「目」を持つということ
Photo by Senri
彫刻を見る目を持つのが困難な理由
彫刻家にとって最も過酷で、かつ最も魅力的な問い。
それは「いかにして石の塊の中に、生命感あふれる立体を見出すか」という一点に尽きます。
私の師匠はかつて、**「彫刻家としての目を持つまでに20年はかかった」**と語っていました。
立体を立体として、つまり「空間の充実」を伴ったフォルムとして捉えることは、それほどまでに困難な修行といえるものでした。
初心の皆さんの多くは、石を彫り進めるうちに形が「痩せて」しまったり、彫りが進まず「デブデブ」の彫刻になってしまったりしてしまいます。
それは、石という素材への向き合い方を、まだ身体が理解していないからです。
もう一つ彫刻的な見方をするのが困難な根本的な理由は、人間の目は物事を平面でとらえるようになっているからです。(このことについてはまた別の機会にゆっくり説明しますね。)
技法は彫刻家の目を持つための道しるべ
今回解説する大理石を含め、石という素材を彫るには、情熱だけでなく、確かな「方法」が必要です。今回は、私の40年のキャリアの中で経験してきた5つの技法をご紹介します。
技法とは人間の目を彫刻的または立体的な見方に導く道しるべのようなものなのです。
これらは、あなたが石という宇宙を進むための「羅針盤」となるはずです。
大理石の彫刻の彫り方の種類① 四面法(Four-Sided Method)
キャプション:かまぼこ上に彫り進められた石 Senriアトリエ
「四面法」は確実に空間を構築する方法
「四面法」は、石のブロックの前後左右の4方向(実際には上下も入れて6面)からデッサンを写し取り、それぞれの面から中央へ向かって追い込んでいく、彫刻的なフォルムを獲得するのには最も安定的で確実な方法です。
なぜ確実にそうすることが出来るかと言えば、それは立体を性格づける3つの要素(3次元)縦、横、高さという要素を自然にフォルムの中に含有することが出来るからです。まさに自然の理屈に沿った方法と言えます。
技術のポイント
まず直方体の石の4面に、正確な図面(デッサン)を描きます。そして、正面から不要な部分を削り落とし、次に側面から削る。これを繰り返すと、最後には中央でカクカクした形が結実します。そこから角を削り取って、形に丸みをつけていきます。
Senri’s Insight:粘土の足が教えてくれたもの
実はこの方法、若き日のある「発見」を通して掴み取ったものでした。ある日、粘土で足を作っていた時、フォルムが決まらず悶々としていた私は、粘土を一度きれいな「四角柱」に成形し、正面と側面から描いたデッサンを「かまぼこ状」に切り落としてみたのです。
それはいつかエジプト美術展を見たときに、作りかけの御影石の彫刻がこのような方法の痕跡を残していたのを思い出したためでした。
現れたのは、カクカクとした異様な多角形の塊でした。しかし、その角を落とし、丁寧に丸みをつけていくにつれ、そこには、圧倒的な「空間の充実」を湛えた、今にも動き出しそうな足が誕生していったのです。
「一つの手法が命を宿す彫刻を作る道しるべになる。」私が彫刻を作るうえで学んだことです。技法とは人類が歴史を通して形づくってきた英知の結集なのです。
忍耐の先に現れるもの
- 大理石での四面法は、正面のデッサンを「かまぼこ状」にするだけでも数日かかることがあります。石彫の作業はドラマチックな高揚を楽しむだけでなく、淡々と忍耐強く叩き続ける時間が多い。
しかし、この方法の最大の利点は、初心者が陥りがちな「形の迷子」を防げることにあります。
四方向から形を確定させていくことで、確実に完成へと近づける。
立体を理解するための基礎体力と言えるでしょう。
キャプション:四角い石のブロックから始まったとは思えない、しなやかな生命感。Senri個展会場
大理石の彫刻の彫り方の種類② 星取法(Pointing Method)
星取法は精密なる「翻訳」
「星取法」は、原型(粘土や石膏で作ったモデル)を正確に石へ写し取るための、きわめて論理的な技法です。
技術のポイント
「ポインティング・マシン(星取り機)」という、三本の脚を持った特別な器具を使用します。
原型の特定の点にマシンの針を合わせ、そのアームに取り付けられた針を使って彫りの深さを石の上で再現していきます。
19世紀のヨーロッパで、彫刻が高度な再現性と量産性を獲得できたのはこの技術のおかげです。
Senri’s Insight :計測値が信じられない
私自身がこの方法を実践して非常に面白いと感じたのは、**「数値と感覚のズレ」**です。マシンの針が示す石の中の点は、しばしば自分の予想よりも遥かに深い場所にあります。
「え、そんなに深いところまで彫るの?」「そんなはずはない」──。
機械が示す正確な答えを、自分の目が信じられないのです。
その驚きに手が止まってしまうことさえあります。
しかし、その戸惑いこそが、自分がそれまでいかに「思い込み」で形を見ていたかを教えてくれるわけですね。
名作によって「彫刻的フォルム」を学ぶ
この方法で、過去の名作の石膏像などを大理石に写し取る作業をしてみれば、彫刻のフォルムの学習において極めて有意義な教えを得ることができます。
巨匠たちが到達した究極のフォルムを正確に追体験することは、自分一人では辿り着けなかった「フォルムの深淵」を身体に刻み込む、貴重な学びの機会となるはずです。
大理石の彫刻の彫り方の種類③ 前面法(Frontal Method)
Photo by Senri
前面法はダイレクトに直感を頼りに石と対話する方法
前面法は、石の正面からノミを入れ、手前から形を彫りだしていく「度胸」と「直感」が求められる、非常にダイレクトな方法です。
技術のポイント
石の一つの面を「入り口」として、浮き彫り(レリーフ)をだんだんと深めていくような要領で奥へ奥へと彫り進めていきます。最終的に丸彫りの形に持っていきます。四面法と違い、石の彫り残しをわざと残し、石から彫刻が浮かび上がるように作ることもできます。
Senri’s Insight : 石と踊る喜び
この技法の最大の魅力は、何と言っても**「石を彫る純粋な喜び」**にあります。
緻密な計算や技法の観念を手放し、剥き出しの石に直接ぶつかっていく。
そこには、何物にも代えがたい石との交流の時間があります。
この方法では直感を最も頼りにすることになります。
一点からのアプローチは失敗の恐怖も伴いますが、それを上回るのが「直感への信頼」です。
直感を信頼するとは自分がノミを当てている石が必ず美しくなるという、「石への信頼」にも通じるでしょうか。
石は必ず応えてくれます。
頭で考えることを超えて、石と手が一体になる瞬間。
前面法は、彫刻家にとって最もエキサイティングな手法の一つです。
大理石の彫刻の彫り方の種類④ 水没法(Water Displacement Method)
キャプション:石の皮を脱ぎ捨て形が姿を現す。Senri作 「男の顔」
水没法はミケランジェロの発明?
ミケランジェロが実践したと言われるのが、この「水没法(あるいは水面法)」です。
水槽の中に横たわるモデルがあり、同時にそれを満たします。そして水がだんだんと抜かれていく様子を想像してみてください。
水面から形が少しずつ「水平な層(断面)」として現れてくるでしょう。
水没法はこのように水が引くように余分な石を取り除いていくように彫る方法です。
技術のポイント
水没法のポイントとしてはある程度仕上げた表面の部分をだんだんと増やしていくこと。
まさしく水が引いていくように彫っていきます。
そのようにすると、取り除くべき石の部分は常に明確に示されます。
彫り残された石の部分をわざと残していくと大変ドラマティックな彫刻表現となります。
Senri’s Insight :隠れた形を見つける
私自身、水没法を実践してみた感覚はとてもエキサイティングなものでした。
完成させようとしている彫刻のほんの一部を石の中に彫りだすと、本当にその彫刻が石の中に埋まっているように見えて驚きと感動を覚えたものです。
人間の想像力は、ちょっとしたきっかけを与えてあげることで、非常に冴えわたるのですね。
ミケランジェロの哲学
彼は「石の中にすでに命ある形が眠っている。私はその周りの余計な石を取り除いてあげているだけだ」と語りました。
有名な「奴隷」シリーズなどは、まさに石の中から肉体がじわりとせり出してくるような、水没法のアプローチが顕著に表れています。
この方法を生み出した発想の根源には、ミケランジェロの石の中に命ある彫刻を見抜く天才的な精神性が存在していたと言えるのではないでしょうか。
【簡単なエクササイズ】
お風呂に入ったとき、自分の手をお湯にしずめ、それからだんだんと水の表面に浮かび上がらせてみてください。
石彫における水没法をイメージできると思いますよ。
大理石彫刻の彫り方の種類⑤ 比例計測法(Proportional Method)
キャプション:マケットの感動を、巨大な石へと正確に「翻訳」する職人の知性。Senri アトリエ
ピエトロサンタで見た伝統的な技術
イタリアの大理石の聖地、ピエトロサンタの職人たちが今も大切にしているのが「比例計測法」です。
模型(マケット)の寸法を測り、それを「2倍、3倍」と計算して石に写していきます。これによって、掌で思案したイメージを巨大なモニュメントへと正確に拡大することが可能になります。
技術のポイント
ノギス(定規)を使い、模型(マケット)のある点から展の距離を測ります。あらかじめ作っておいた比例図にノギスを合わせて、拡大したい倍数にノギスを調整します。調整したノギスを新しく作る大理石の上に印をつけていきます。模型の中の三点と大理石の中の三点を正確に相似の関係にしていきます。この三点の計測を繰り返します。
Senri’s Insight :職人の熟練
私がピエトロサンタで職人たちの技を見たとき、その正確さと手際の良さに圧倒されました。
しかし、いざ自分でやってみると、デコボコとした「自然石」のどこを基準(原点)に測ればいいのか、最初は途方に暮れてしまいました。
四角いブロックではない石を相手にする時、計測はあくまで目安であり、形を見る目が必要となります。やはり熟練を必要とする、奥の深い技術ということができます。
おわりに:あなたの「石との話し方」を見つけよう
キャプション:技法という合言葉を超えて、石はあなただけの物語を語り始めます。 Photo by Senri
今回ご紹介した5つの技法は、先人が石というものに向き合い、石の中に「彫刻」を見出すために生み出した方法です。
私が学んできた彫刻とは「生命ある彫刻」のことです。
それが人間と石が出合い、対話を通して見出した美の形なのだと思っています。
私自身、30年石を彫り続けてきましたが、今でも石に向かうたびに新しい発見があります。
技法を学ぶことは、石という寡黙な存在と会話するための「合言葉」を増やすようなものです。
最初は四面法で確実に形を掴むことから始めてもいい。
あるいは前面法で石と情熱的にぶつかってみるのもいい。
大切なのは、どの技法を通るにせよ、最終的にはあなた自身の手で、石の中に眠る生命を解き放つことです。
この記事が、あなたの彫刻という長い旅の、ささやかな「羅針盤」となれば幸いです。





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