こんにちは。ミロの羅針盤館長のSenriです。
今日は大理石彫刻の磨き方について、お話していきたいと思います。
私は普段から大理石の彫刻を作っています。
その作業の中に磨きの工程があります。
エジプトやギリシアなどの古代彫刻や、ルネッサンス期のミケランジェロの彫刻も、磨きの工程を経て完成されていました。
今回は、小さい作品を使って、手磨きの方法をお伝えします。
この記事を読むと、
大理石を磨くとはどんな作業か
大理石を磨く道具
大理石を磨く工程
大理石の色に即した磨きの注意点
について知ることが出来ますので、どうぞ最後までお付き合いください。
大理石の磨きは忍耐のいる仕事?

音を上げた大学生
以前、ある美術大学で、学生を相手に石彫実習をやったことがあります。
(自分の考えた形を)大理石の原石からノミを使ってを彫り、最後に磨きをかけて完成という工程です。
学生たちは、ノミで石を彫っていく段階では、夢中になってどんどん進めていきました。
しかし磨きの段階になると、とたんに音を上げてしまいます。
やっても、やっても進まないからです。
これにはいくつか理由がありました。
その一つを解決するために、私は皆さんに提案しました。
それは「石の時間」に入ること。
大理石彫刻の磨き方 石の時間に入るには
さて、その説明に入る前に、石の「磨きの原理」について少し触れておきましょう。
20世紀最大の彫刻家と言われた、ヘンリー・ムーアは、川の上流にあった石が、長い年月をかけて下流のほうに流れ着いたころに、角が取れて丸くなっていることを示し、これを自然界における磨きの原理であると説明しました。
ヘンリー・ムーアの磨きの原理① 磨きには時間がかかるもの
ムーアの説明では、大事なポイントがおよそ2つあるのですが、一つは磨きには長い時間が必要だということです。(もう一つのポイントについては後程説明します。)
大学生を見ていてもそうなのですが、現代人は、自分がやったことの結果がすぐに見えないと、イライラしたり、不安になったりする傾向があるようです。
石を磨く作業は、現代の日常的な時間軸と少し違うということを認識する必要があるように思います。
「石の時間」に入る具体的な方法
そこで最初にお伝えした「石の時間」に入るということが大切になってきます。
「石の時間」というのはいわば大自然の時間ということですね。
では、「石の時間」に入るコツをお伝えします。
それは、「数える」こと。
大理石のある部分に耐水ペーパーを当てて、前後に50回動かしてみましょう。(一往復で一回と数えます)あまりごしごし力を入れる必要はありません。
一回で削り取れる量は決まっていますから、強くこすりすぎても力が無駄になるだけです。
一番いい力加減は、やりながら自分でつかんでいくしか方法はありません。
どれくらいのペースで?
あまり早く手を動かすと疲れてしまいます。(ついつい早くなっちゃいますよ。)
ゆっくり、ゆっくりがいいです。
そうですね、今回の作品の大きさなら、往復1秒くらい。
時計と同じペースで磨いてみましょう。
50回動かしたら、また次の50回、それが終わったらまた50回と数えながら手を動かしていきます。
これで石の時間に入ることが出来るでしょう。
このような状態になれば、無心に手を動かし続けることが容易になります。
段階を踏むことの大切さ
次に大事なポイントはきちんと段階を踏むということです。
石の磨きでは、荒目のものから細目のものまで約5~6段階の粗さのサンドペーパーを使います。
今回使う番定は
120番,240番,400番,1000番,2000番です。
例えば、120番のペーパーをかけたあと240番をきちんとかけておかないと400番では120番の傷を消すことはできません。(出来ないことはないのですが、とてつもない時間がかかります。)
図で説明すると以下の通り。

この図で分かるように、もし例えば120番の疵を消すのに、1000番のペーパーを使ったとしたら、とんでもなく時間がかかってしまうし、おそらくいつまでたっても完成しないでしょう。
それは例えて言えば、小さなノミで、大きな山を削り取るような作業になってしまうからです。
ですから磨きの工程では、各段階のプロセスをちゃんと踏まなくてはならないのです。
そういうことかー!
大学生の磨きが一向に進まなかったもう一つの理由は、つい先を急いで、今やるべき仕事を飛ばしてしまったことにあったのです。


大理石彫刻の磨き方 実践① 白大理石
それでは実際に磨いていきます。
今回は白大理石と黒大理石を磨いていきます。

大理石には実に多彩なな色があります。大きく分けると、色の明度が高い白色系、明度が低い黒や赤系。それぞれに少し磨きのポイントが違ってきます。
また出来上がりの雰囲気の違いも分かっていただけると思います。
磨きの前の段階として、グラインダーに中仕上げ用のカップ砥石をつけて成形したところからスタートします。
砥石(青砥)で形を整える
まず、細目の人工砥石(青砥)で形を整えます。
青砥は石材工具専門店でブロックで買うことが出来ますし、近くの石材屋さんで分けてもらうこともできるでしょう。
青砥は石の形に磨くほどに、石の形に合わせて削れていくので、滑らかな形を作ることが出来ます。
水をかけながら削ります。
Senriの工夫
私は、グラインダー用の青砥がちびて小さくなったものを、切り分けて木の柄にエポキシボンドで接着して使っています。
柄がついていると力が入りやすく使いやすいです。
ヘンリー・ムーアの説く磨きの原理② 最短距離の曲線
さきほどの、ヘンリー・ムーアが説明した自然界における「磨きの原理」の残りの一つがこれです。
それは、一言で言うと「最短距離の曲線」を描くということです。
下の図をご覧ください。
ポイント&注意!
石に消したい疵があったとき、そこだけ削っていると、形が凹んだりゆがんだりしてしまいます。
以下の図の、川の下流に流れ着いた石のように、均等にやすりが当たり、自然な形で丸まっていることが大事であるということを覚えておいてください。
青砥の段階では、このように全体の形を整えるのが目的となります。

では実際に青砥をかけていきます。
水をかけて目詰まりを防ぎます。

これがあると便利!
大理石を支える台があると、安定して磨き続けることが出来ます。
作り方は角材を3角形にして釘やビスで留め、その中に大理石を置きます。三角形の作業台
これが終われば、基本的に磨きのための下地が完成です。

耐水ペーパーで磨く 120番をかける
この上から120番のペーパーをかけていきます。
この時も水をかけてあげます。 大理石の粉がペーパーに目詰まりすることを防ぎます。
表面全体に赤鉛筆で印をします。

一部だけ選んで約150~200回(50回ずつ数えましょう。)手を動かしましょう。
それが済んだら隣の部分を同じように磨きます。
そして全体に同じ回数だけペーパーが当たるようにしましょう。
こうすることによって均一に磨くことが出来ます。

ちょっとしたコツ
ペーパーをこのように帯状に切り、それを4回ほど折り曲げます。すると弾力のある厚紙になります。それを石の形に合わせるようにして磨きます。耐水ペーパーを折り曲げて石のカーブに合わせる
120番はかなり粗い目ですので、この段階はいまだ、形を整えるという役目を持っています。
ここで青砥の傷をしっかりとるとともに、最終的な形へと注意深く完成させていきます。
ここでいい加減にペーパーを当てると形が壊れてしまいます。
磨きで最も大事な段階と言えるでしょう。
磨きの工程では青砥や120番のペーパーの段階で最も時間を使います。
120番まででしっかりとした仕事が出来れば、後の番定は比較的容易に進めることが出来ます。
この段階では目視で青砥の疵を確認することが出来ます。ドライヤーで乾かし、さらに目視で疵を確認します。
疵を見つけたら赤鉛筆で印をつけていきます。
それらを丁寧に120番で消していきます。
注意!
疵のところだけ集中してペーパーを当てないように。
出来るだけ大きく手を動かしましょう。
ドライヤーで乾かし、青砥の傷がなくなったら基本的に120番がかかったと思って大丈夫です。
写真ではわかりにくいですが、青砥と120番の違いははっきり分かります。

マットな仕上がり?
白大理石は120番がきちんとかかると、ペーパーの筋目は肉眼では見えなくなります。この状態をマットな仕上がりとして完成とする場合もありますよ。
耐水ペーパーで磨く 240番をかける
240番をかけていきます。
白色系の大理石において、この段階では目視で、120番の傷を確認することはできません。
彫刻全体に赤鉛筆で印をつけていきます。
120番の時と同様に、赤鉛筆の上からある部分だけを磨いて行きます。
ペーパーをかけて赤鉛筆が消えたら同じ場所を約100回くらい擦れば240がかかったと思っていいでしょう。(あくまで目安ですよ。)
それが済んだらほかの部分に移って同じ作業を繰り返します。
そして全体に磨きがかかるようにしていきます。

赤が消えてしまってからも、最後に全体にまんべんなく磨き(240番)をかけて下さい。
ここでしっかり磨きがかかれば、次の400番もかかりやすくなります。
240番ではまだ艶は出てきませんが、120番と比べると、肌理(きめ)の細かい印象の仕上がりになります。

Senriのおすすめ
長時間耐水ペーパーを素手で扱っていると、皮膚がすれて知らないうちに血がにじんでいた、というようなこともしばしばです。
私のおすすめは100均でも買える「指サック」。
ゴム手袋よりも手が自由に動かせて、指もしっかり保護できます。
耐水ペーパーで磨く 400番をかける
400番をかけていきます。
同じように彫刻全体に赤鉛筆で印をつけていきます。
240番の時と同じ要領で各部分を約100回ずつ磨いていきましょう。
400番がかかると、青砥や120番などの傷がうっすら見えてくることがあります。
その傷のある場所に赤で印をして、120番の疵でしたら240番まで戻って磨きなおします。
どれが、青砥の傷でどれが120番の傷か、あるいは240番の疵か、初心者には判断しにくいと思いますが、経験を積むにつれて分かるようになります。
各段階でしっかり磨きがかかったかどうかを判断するのにも、やはり失敗を重ねながら、自分なりに掴んでいくしか方法はありません。
こうして番定が上がっていくごとに前の段階の傷がよく見えるようになります。ですから各段階でしっかり作業が出来ていることが大切になってきます。
これさえできていれば、上の番定での作業は早く済みます。
400番がしっかりかかると、うっすら艶がかかって見えます。

耐水ペーパーで磨く 1000番をかける
1000番をかけていきます。
同じように彫刻全体に赤鉛筆で印をつけていきます。
240番の時と同じ要領で各部分を約50回ずつ磨いていきましょう。
400までしっかりかかっていれば少ない回数で磨けます。
1000番がかかるとずいぶん艶(半艶)が出てきます。
好みによってこの段階で終了するという選択もあります。
耐水ペーパーで磨く 2000番をかける
最後に2000番をかけていきます。
同じように彫刻全体に赤鉛筆で印をつけていきます。
1000番の時と同じ要領で各部分を約50回ずつ磨いていきましょう。
Senriの場合
私は、もうこの段階では赤鉛筆で印はせず、全体にペーパーをかけていきながら
途中で乾かして、仕上がりの調子を見ながら進めることが多いです。
この段階では、作品の印象を大事にし、仕上がりを決めていくわけです。
2000番まで磨く理由は?
磨きの大きな目的の一つは、石本来の色味を獲得することにあります。
白色系の大理石ですと磨いた後の色の差は、ほとんど感じられませんが、黒系や赤系その他の色物の場合、2000番までかけると、その大理石本来の色味が得られます。
大理石彫刻の磨き方 実践② 黒大理石
次に、色の濃い大理石の磨き方について解説していきます。
今回は、世界中の大理石の中で最も黒く気品があると言われるベルギー産の黒大理石を使ってみましょう。

磨き方自体は白大理石と同じです。
おさらいしてみましょう。
青砥がけ
120番
240番
400番
1000番
2000番
です。
暗色系の石ほど疵が目立ちやすい
磨き方は白大理石と同じでも、暗色系(今回は特に強い黒色)の大理石は疵が目立ちやすいというこ特徴があります。
白大理石の時も指摘したように、それぞれの段階の作業をしっかり完了させることが、白大理石の時以上に大事になってきます。
そうでなければ、いくら最後に2000番をかけても、最終的に大理石の持つ本来の黒さを表すことが出来なくなってしまいます。
青砥をかける 黒大理石
それでは各工程での注意点や白大理石との対応の違いを見ていきます。
白大理石と同じように青砥をかけていきましょう。

黒大理石に青砥をかけると青砥の疵のラインがよく確認できます。
形は、白大理石の時と同じように「最短の曲線」で仕上げられています。

120番をかける 黒大理石
120番をかけていきます。
途中で青砥の疵を確認し赤鉛筆で印をつけながら磨いていきます。

黒大理石の場合、青砥の疵は目視で確認することが出来ます。
青砥の疵がなくなるまで、粘り強く120番をかけていきましょう。
以前にも指摘したように120番ではまだ形を成形している段階でもあります。
最終的な形を仕上げるという意図を持ちましょう。
上の写真の赤の印以外のところは120番がかかった状態です。
まだ120番の疵の細い線が目視できます。
240番をかける 黒大理石
次に240番をかけていきます。

各部分を100~150回(往復で一回)磨いた後に目視で120番の疵を確認しましょう。
疵を見つけたら、赤で印をつけ再度磨きます。
この作業を繰り返し、120の疵が全く無いようにしましょう。

240番がかかると色がだんだん深いグレーになってきたことが分かります。
この段階ではまだ240番の微細な線状の疵が目視できます。
400番をかける 黒大理石
240の仕上げ面全体に、赤で印をして部分ごとに400番をかけていきます。
白大理石の時は、一か所100回くらいを目安にしましたが、黒大理石でもまず100回ほど磨き、その後目視で、240番の疵を見つけて、すべて消していくようにします。
白と黒の作業の違い
黒の磨きはどこまでも目を頼りにしていくということです。メガネが必要な場合もあるかもしれませんね。
もう一つ400番の仕上げの段階でポイントがあります。
それは色むらを抑えて均一に仕上げるということです。
400番では、色むらが出たりします。これは240番の疵というより、400番がしっかりかかっているかいない、事によるものです。
ここでムラをとっておかないと、次の1000番では修正できませんので、さらに時間をかけて磨くことになります。
このあたりも白大理石とは違うところですね。

1000番をかける 黒大理石
400番の仕上げ面に赤で印をして、各部分ごとに100回を目安として磨いてみましょう。
ベルギー産黒大理石においては、400番でもうっすらと細い疵の線が見えます。
100回磨いた後でもこの傷が見える場合は、これを完全にとっていきます。
また400番の時と同じように、仕上げ面にむらが出てくる場合があるので、均一な色になるまでペーパーを当てます。
1000番がしっかりかかると、深みのある暗いグレーになってきます。
しっとりとした艶もかかっています。

さあ、あともう少しです!
2000番をかける 黒大理石
最後に2000番を書けていきましょう。
1000番の仕上げ面に赤で印をつけ、1か所を100回磨きましょう。
そのうえで、ムラがなくなるまで磨きます。
2000番をかけると、400番とか240番の浅くなった疵、あるいはそれ以前の疵の痕跡が出てくることがあります。
場合によってはかなり疵が浮き上がってきます。
それを確認したら、確認した番定の一つ上まで戻って戻って疵をとります。
1000番までの仕事がきちんとできていれば、スムースに終了することが出来ます。
「最期の審判」?
2000番は、それまでの仕事の良しあしが明らかになる「最後の審判」のようなところかもしれませんね。

撥水剤を塗布
大理石は、手の指の油などをよく吸い込みます。
白大理石はそれほどでもないのですが、黒大理石の場合は、すぐに色ムラになってしまいます。
そこで撥水剤を塗布しておくことをお勧めします。
大理石用の撥水剤があります。
ウエットタイプと自然色タイプ
ウエットタイプと言われるものは、塗布した後に水にぬれた色になります。
黒大理石などは本当の真っ黒になります。
自然色タイプ(呼び方はメーカーによって違います)と言われるものは、塗布して乾燥すると、元の色味に戻ります。
どちらも撥水作用があります。
完成

大理石彫刻の磨き方 おわりに
今日は、大理石彫刻の磨き方について解説してきました。
大理石彫刻と、例えば大理石の建材では、磨きの意味合いが大きく異なってきます。
大理石彫刻における磨きととは、彫刻のフォルムとその生命感の表現に直結したものであると言えます。
この記事でも登場したイギリスの彫刻家ヘンリー・ムーアも、抽象彫刻の祖と言われる、ルーマニア出身の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシも、「磨き」というものを、そのような意味合いでとらえていました。
勿論、ギリシアやエジプトなどの古代彫刻を見ても、同じことが言えます。
今回は、出来るだけ「磨き」の本質に迫って、その目的とするところを明らかにするように努めました。
最後までお付き合いくださり誠にありがとうございました。















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